連載コラム「谷山浩子 Favourite Things A to Z」

S 三国志

三国志

「三国志」は小学生のとき「少年少女世界の名作文学」という全集の中に入っていた児童向け版を読んだのが最初だったと思います。それをきっかけに好きになって、小学生のときに繰り返して読む愛読書の中の1冊でした。「三国志」のほかに好きだった本は「三銃士」と「太閤記」と「水滸伝」です。基本的に冒険譚が好きだったんです。

「三国志」はまず史実としての物語を書いた歴史書、それを元に小説にした「三国志演義」があって、「三国志」ファンの中でも歴史書派と小説派に分かれているらしいです。私はフィクションの「三国志」が好きでした。

児童向け版の次に読んだ三国志は、吉川英治さんの小説。高校生の時でした。その次は四十代だったと思いますが横山光輝さんのマンガ。そしてその少しあとに中国中央電視台というテレビ局が作った大河ドラマ。これはすごくハマりました。最初はビデオで買って見て、後にDVDで買い直しました。吹き替えじゃなく字幕版で見ていたので中国語にも興味がわいて、NHKのテキストとか買って勉強したりもしました。半年で挫折しましたが。

このドラマは魅力的な役者さんが多くて、とくに孔明を演じた役者さんがとてもカッコいい。一方で、中国ドラマならではの「とんでも」のところも多くて、ひとつの役を4~5人くらいで演じていることがあったりするんです。ある日突然趙雲の顔が変わっていたり(笑)。役者が余っているからなのかと思いきや、ひとりの役者が複数の役を演じたりしていることもある。袁紹と周瑜が同じ人だったのは驚きました。日本で言ったら、ひとつの大河ドラマで今川義元と明智光秀を同じ役者が演じるみたいなものですから。

エキストラもひどくて、戦闘シーンなのに笑っていたり、みんなが死んでいるというシーンなのに顔を上げて辺りを見回している人がいたり……。カメラの汚れが同じところについたままずっと落ちなかったり(笑)。

一方で、「三国志」の中でいちばん有名な"赤壁の戦い"の合戦シーンは、かなりリアルに撮影されていて、直視できないシーンがあるくらいで、その度合いが半端じゃないんです。火の使い方は迫力があるし、人や馬が燃えたり、崖から落ちたりしていて、ケガじゃすまないんじゃないかと思うほどです。

小学生の頃は孔明の大ファンでした。頭がよくて面白いことを次々と考えるところが好きでした。高校生の頃は関羽が好きでした。物静かでインテリで、忠誠心がすごく強い。愚直さゆえに最後は敵に囲まれて死んでしまう悲劇の武将ですが、そんなところに惹かれていました。若い頃はそういうキャラクターに憧れますよね。関羽萌えだったわけです(笑)。大人になったらまた孔明に戻りました。

「三国志」には多くの登場人物がいて、それぞれ癖がある個性的なキャラクターで、各人にいろいろなエピソードがあるところが面白いんです。だから人によって好きなキャラクターが違うんです。何度も読み返した結果、やはり孔明が好きだなと思いました。孔明は人間の器が大きくて、志も高くて、みんなを幸せにしたいという気持ちの強い人なんです。長い歴史の中でたまにこういうタイプの偉人が出てくるから、地球上の人類が終らずにここまで来たんだろうなって。自分には真似できないけど、せめてそういう人を好きでいなければいけないって思うんです。