文/長井英治
1999年10月20日
キャニオン/AARD-VARK
PCCAX-01389
紙ジャケットシリーズ
2011/9/14
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-10157
(Blu-spec CDTM仕様)
90年代にリリースした最後のアルバムであり、70年代より長らく在籍したレコード会社、ポニーキャニオンからの最後のアルバム。まず飛行機の影が横切るジャケット写真が印象的。何を予言しているのか、深いメッセージがあるのではないかと想像を巡らせてしまう。この写真のイメージがこのアルバムを重い印象にしている。振り返れば、90年代後半の谷山さんは、考えるところの多い時期だったのかもしれない。1996年のアルバム『しまうま』の表題曲に谷山さんは自身を投影したのではないかと解釈したが、本作でも眠るだけ、食べるだけ、羽ばたくだけの「鳥」に憧れを抱いている主人公がここにはいる。(「僕は鳥じゃない」)。ほかに、岩男潤子や石井聖子に提供した曲のセルフカバーや石井AQが美少女ゲームに書き下ろした(ゲーム自体の企画は流れたそうだが)楽曲に谷山さんが詞を書いた「ドッペル玄関」を収録。「白谷山」好きの筆者にとっては「あかり」「夢の歯車」「窓の外を誰かが歩いてる」あたりを聴くとホッとする。この時期の白谷山の楽曲はとてもメロディが美しい。重い印象とはいえ、このCDのブックレット(歌詞カード)の中に映る谷山さんはすべて笑っていて、それを見てまたホッとする。
「このアルバムのタイトルはかなり悩みました。収録曲の中でも気に入っている「ドッペル玄関」にしたかったんですが、全体のイメージをそっち方向に引っ張りすぎてしまうかなと。で、思いつきで「僕は鳥じゃない」にしたのですが、いまだにそれでよかったのかよくわかりません。「窓の外を誰かが歩いている」の窓は、歌詞には出てきませんが実は三階の窓です。ちょっと怖いでしょ?(笑)」
2001年1月24日
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00003
21世紀に入って初のオリジナル・アルバム。そしてレコード会社をヤマハミュージックコミュニケーションズに移籍しての第一弾という新境地の中で制作された作品である。そんな環境の変化が精神状態にも影響を与えたのだろうか、このアルバムはサウンド全体を包みこむオーラは、まるで床暖房からぬくぬくと伝わって来るような温かさのようにとても心地いい。名盤と言い切って差支えないと思う。由紀さおり・安田祥子に提供した「さよならのかわりに」は「白谷山ソング」の中でも名曲中の名曲で、コンサートでも頻繁歌われている。由紀さんもコンサートのラストに歌っているのだとか。実際に見た夢をそのまま歌にしたという「仇」や谷山さん自身がメロディの綺麗な曲ベスト3に挙げている「空からマリカ」など佳曲を多数収録。「夢」という曲は現実の中の夢が醒めたのか、夢の中の夢が醒めたのか、どこが現実だかわからないような怖さがある。もしかしたら死ぬ直前の人は生きていた時間をすべて夢だと思うのかもしれない。そんなことを想像させる。ジャケットはカメラを構えるレンズに本人(谷山さん)が写っているというもの。この時期の谷山さんは写真を趣味としていて、ブックレットの写真はすべて自身の撮影によるもの。
「写真撮影ブームの真っ最中に作った曲が多く、レコーディングの時もブームが続いてました。だからジャケットにも歌詞カードにも自分の撮った写真を使ってもらったし、わたしの中では写真撮影と切り離せないアルバムです。カメラを持って歩いていると、世界を見る見方が変わるんです。特殊な意識の状態になって、それがとても心地よくスリリングでした。この頃はまだフィルムカメラを使ってました。デジカメになってからは、あんな特別なワクワクは味わえていないですね。残念ながら。」
2002年4月17日
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00038
2001年9月に起きた同時多発テロ事件は世界中を震撼させた。その衝撃が2002年に発売されたこのアルバムにも現われている。だからこそ、前向きなアルバムを作りたかったということだが、その影響が色濃く出ているのは「学びの雨」である。穏やかなメロディの中に強い生命力を感じるメッセージソングで、出来ればフル・オーケストラで聴いてみたいと思わせるような壮大な1曲。感動せずにはいられない。「電波塔の少年」は昨年の40周年記念コンサートのときにフルバンドで演奏された曲。照明を含めてとても強く脳裏に焼き付いている1曲でもある。「ゆりかごの歌」は初めて<殺す>という言葉を使った曲で、歌うときには辛い気持ちになってしまうのだとか。ラストの「カタツムリを追いかけて」のような白谷山ソングでアルバムが終わると、個人的にはどこかホッとした気分になる。谷山さんの言う「前向き」というのは、表面的に判りやすいものではなく、聴き終えた後にじわじわと自分の底から力が湧いてくるようなものを指しているのかもしれない。
「普段あまり社会派ソングみたいなものは作らないのですが、9.11の衝撃は大きくて、直後に一曲(ゆりかごの歌)、少したってから一曲(学びの雨)歌ができました。作ろうと思ったわけではなく、できてしまった感じです。曲順はすごく迷って、ラストから二番目を「ゆりかごの歌」ラストを「学びの雨」という案をずっと検討していましたが、最後に救いを持って来たとしても全体が暗く重いイメージになってしまうので、思い切って「学びの雨」からスタートする形を選びました。」
2002年10月23日
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00040
1988年に発売された「しっぽのきもち」に続く子供向けの楽曲を集めた作品集。キャッチコピーは「生活(くらし)の中に生きる童話(うた)」。1~5、7、9はNHK「みんなのうた」、6は「おかあさんといっしょ」8は「いないいないばあっ」のために書き下ろされた楽曲。つまり全曲NHKで流れていた楽曲で構成されている。子どもが成長していく過程において、NHK(及び教育テレビ)の番組はとても重要な位置を占め、「みんなのうた」などの番組から流れてくる曲は必要不可欠な存在であった。多くの子どもたちが谷山さんの歌を聴いて成長したかと思うとファンとしてとても嬉しく思う。そんな影響からか、「谷山浩子=みんなのうた」というイメージを持っている方は意外に多い。昨年、猫森集会で共演していた持田香織さんも「みんなのうた」で谷山さんを知ったと言っていた。このアルバムは10曲入りだが、そのオリジナルカラオケが10曲収録されているという太っ腹な1枚でもある。これらの曲を大人になってから改めて聴いてみると、その奥に潜む深くて暗い部分に気付いてしまったりするのだが、ここではそこは見ないふりをして子どもの世界に陶酔したい。
「NHK「みんなのうた」に「そっくりハウス」を提供したのをきっかけに、子供のために作った歌を久しぶりに集めてみました。新録のものはAQの自宅スタジオで歌まで録りました。「誕生」は二十代の頃にヤマハの子供たちのコーラスグループ「ピクルス」のために作った歌です。ライブではたまに歌っていましたが、初めてレコーディングしました。サビのメロディをはっきり覚えてなくて、やや創作はいってます。」
2003年9月17日
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00042
オリジナルとベストアルバムを含めると30枚目という記念すべき作品。そのアルバムの1曲目「よその子」にまず度肝を抜かれる。8分を超える大作を1曲目に持って来てしまうところが実に谷山さんらしく、谷山さんのこういうパンキッシュな感覚に親近感を抱くのだ。「よその子」はこの時期の代表作のひとつ。昨年の40周年コンサートのアンコールで弾き語りを聴かせてくれた「意味なしアリス」も同様。本人にとっても思い入れの強い曲なのだろう。この曲はイントロだけで心を鷲掴みしてしまう、不思議な魅力をもった曲だ。「ここにいるよ」「あそびにいこうよ!」は、この時期多くの曲を提供している岩男潤子のセルフカバーだが、これらの曲はとくにメロディが秀逸。前者は聴いている側の心が澄んでいくよう。そして特筆すべきは「沙羅双樹」。こちらも純度が高く、谷山さんのピュアでイノセントなアーティスト性が表出した名曲といえる。キレイなメロディの曲が揃った本作はこの時期の代表作といえる。
「自分自身の心について、特につきつめて考えていた頃にできた歌が何曲も収録されていて、個人的にも大切なアルバムです。「よその子」に出てくる子供は、大人の心の中にいる子供です。窓も、炎も、巨大な人も、心の中の物語です。アルバム全体のテーマも「心」です。心という、大きくて小さくて身近で遠くて変幻自在な、この上なく不可思議なもの。このアルバムに限らず、若い頃から今に至るまで、わたしはずっと「心」のことを考え続けていると言ってもいいのかもしれません。」