連載コラム「谷山浩子 Favourite Things A to Z」

V Voice

Voice

歌手の声で好きなのは、スティングやジム・モリソンのような、少し枯れた声です。桂銀淑さんの声も好きです。りりィさんやもんたよしのりさんまで行ってしまうとちょっと枯れすぎですが(笑)。澄んだ声が嫌いというわけではなく、澄んだ声の歌手でいいなと思う人もたくさんいます。 ケルティック・ウーマンのクロエ・アグニューが13歳の時に出した「クロエ」というアルバムが大好きで、起きるときのアラームはいつもクロエの「Walking in the air」です。ひそやかでのびやかで幼さの残る少女の声です。そういえばクロエの声も、澄んでいるけれどどこか空気を含んで紗のかかったような感じがありますね。「空気を含んで紗のかかったような」というのがわたしの好みのポイントなのかもしれません。 わたしの声を好きだと言ってくださる方がたくさんいて、とても嬉しいのですが、わたし自身は十代の頃から今まで、自分の声が魅力的だと思ったことがありません。特に若い頃は、もっといい声に生まれたかったといつも思っていました。それでも、歳をとるに従ってだんだん自分の声を好きだと思えるようになってきました。自分のレコーディングした音源を聴いていて、一番好きなのはこの十年くらいの新しい声です。歌い方も含めてですが。 喉がかなり弱いので、いつも気をつかっています。寝る時は365日マスクをしてます。真夏以外は濡れマスクです。お酒、煙草、辛いものなどの刺激物もとりません。冬はもちろん夏も冷房があるので、喉や肩や足を冷やさないように暑苦しい服装をしてます(笑)。大きな声でどなったり叫んだりもしないし、ライブなどで声を使った翌日はできるだけしゃべらないようにしてます。ボイストレーニングの先生には「うるさい飲食店に行くのは絶対ダメ」と言われてます。大声で話してしまうから、声にはとてもよくないそうです。 それでも去年と今年、風邪から咳喘息になって声が出なくなり、ショックでした。それまでは声がほとんど出なくなるような風邪はひかなかったので。薬は苦手だけど、今後は咳は自然治癒を待たずにすぐ止めるようにしないとまずいかなと思っています。できるかぎり長く歌い続けていきたいので。歌手になりたかったわけではないといつも言ってますが、それはヴォーカリストとして天性の能力に恵まれなかったというだけのことで、歌うことは大好きなんですよ。元気がない時でも、歌えば元気になります。歌という行為は、人類に与えられた最高のプレゼントですね。