連載コラム「谷山浩子 Favourite Things A to Z」

U アングラ

アングラ

高校生の頃、小室等さんの大ファンでした。小室さんは別役実さんがやっているお芝居の音楽を担当されていたので、別役さんが書いた詞の曲をたくさん作ってらっしゃるんです。それらの曲が大好きで、とても影響を受けています。

高三の時、小室さんが音楽を手がけているお芝居を自由劇場でやっていて、小室さんから伴奏のエキストラを頼まれました。小室さんがツアーで不在の間伴奏をする人がいないということでお声を掛けていただいたんです。小室さんが参加する時は4人編成のバンドで演奏していたんですが、私はひとりでエレピを弾いていました。1週間くらい演奏したような記憶があります。また、そのお芝居がすごく面白かったんです。タイトルが「セブン・ソングス」。田槙道子さんという方の作・演出でした。

それから何作か自由劇場でやっていたお芝居を見にいきました。私の歌「キャンディーヌ」は自由劇場で見た「魔術師」というお芝居に出ていた大きな人形がモデルになってます。あの歌に出てくる高速道路は、自由劇場を出たところにあった西麻布から霞町あたりの首都高のことなんです。

それが私の唯一のアングラ体験です。当時の自由劇場は、地下に入っていくと独特な匂いがして、それを今でも覚えています。悪い匂いでもないけどいい匂いでもない。ニスというか薬品というか、独特としか言いようがない匂いなんです。狭くて暗い会場にぎちぎちに人が詰め込まれて、お芝居を見るというまるで魔法に掛けられたような不思議な異次元体験でした。本当に夢のような時間でした。